マンデルソン前駐米大使は事前審査で不合格、イギリス外務省は首相に伝えず 次官が辞任へ

ダークスーツ姿の2人が横並びに立って笑顔を見せている

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画像説明, イギリスのマンデルソン駐米大使(左、当時)とスターマー首相(2025年2月、米首都ワシントンのイギリス大使公邸)
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クリス・メイソン政治編集長、ベッキー・モートン政治記者

イギリスのピーター・マンデルソン前駐米大使が大使職の身辺審査で不合格となっていたことを、外務省が首相に報告しなかったとして、同省の事務方トップが辞任することが16日、明らかになった。マンデルソン卿は、アメリカの性犯罪者ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)とのつながりを理由に、昨年大使を解任されている

辞任するのは外務省事務次官のサー・オリー・ロビンス。キア・スターマー首相とイヴェット・クーパー外相の信頼を失い、事実上解任されたとの情報をBBCは得ている。

英紙ガーディアンによる16日の報道で、マンデルソン卿が昨年1月末の時点で治安当局による身辺審査で不合格になったものの、外務省が審査機関の勧告に反して大使就任を認めていたとことが明らかになった。報道を受けて、政府報道官もこれを認めた。

政府報道官によると、マンデルソン卿が審査に不合格だったことは、スターマー首相も閣僚らも今週初めまで知らなかったという。

審査は、内閣府の専門機関・英安全保障審査局が実施している。対象者が機密情報へのアクセス権を悪用したり、恐喝や賄賂の標的になったりする可能性が低いことを確認することが目的。

審査局は、対象者の信用情報や犯罪歴などを調べる。また、特別な訓練を受けた審査官が対象者を面接し、健康状態や友人関係、家族、性交歴などについて質問する。

複数の労働党政権で閣僚を務め、同党の重鎮だったマンデルソン卿は、詳細な審査が実施されるより先に、2024年12月の時点で駐米大使への任命が発表され、2025年2月10日に正式に就任した。エプスティーン元被告との関係を理由に解任されたのは、その7カ月後だった。

スターマー首相は2025年9月10日の下院で、マンデルソン卿の大使任命については「適正手続きが完全に行われた」と3回にわたり答弁している。

この発言が議員たちを欺くものだったとして、スターマー氏に対し、辞任を求める声が上がっている。イギリスの閣僚行動規範は、議会をわざと欺いた閣僚は辞任するものと定めている。

スターマー首相は今年2月5日、英南東部ヘイスティングスで記者会見した後の記者団とのやりとりでも、「治安機関が独立して身辺審査を実施した。これは厳しいもので、その結果(マンデルソン卿は大使の)役職に適格だと認められた。就任までにはそうしたことを経なければならない」と述べていた。

スターマー首相は20日に議会下院で、この問題に関して声明を出す見通し。

ダークスーツ姿の男性が斜め前方を見ている

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画像説明, 辞任することになった外務省のロビンス事務次官

重要な部分を答えず

辞任することになった外務省のロビンス次官は、これまで公務員として数多くの要職を歴任し、テリーザ・メイ政権では、欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)のための首席交渉官を務めた。昨年1月に外務省の事務次官に任命された。

下院外務委員会のエミリー・ソーンベリー委員長(労働党)は、昨年11月の同委員会でマンデルソン卿の審査についてロビンス次官に証言を求めた際、同氏に「ミスリード」されたように感じたとBBCに話した。

「私たちは直接的な質問をしたが、向こうは中途半端な回答しかしなかった。(マンデルソン卿が)審査に合格しなかったという、重要な部分を答えなかったのだ」

BBCが得た情報では、マンデルソン卿は自分に対する審査結果について、ガーディアン紙が今回報道するまで知らなかった。審査の面接後も、どの立場の人も、判定結果について本人に伝えなかったとみられる。

動画説明, エプスティーン元被告と親しい人をなぜ駐米大使に……揺れるスターマー英首相と与党・労働党

審査不合格だったと知ったのは最近と

政府は2月、マンデルソン卿の大使任命に関する文書について、下院の公開要求動議が可決されたのを受け、公開に同意した。

スターマー氏は14日夜、この動議に基づき、どの文書を公開するか精査する作業の中で、マンデルソン氏が審査に不合格だったことを知り、「激怒」したとされる。

BBCが把握しているところでは、マンデルソン氏が任命された当時の外相だったデイヴィッド・ラミー氏は、外務省が審査結果を実質的に覆していたことを16日午後まで知らなかったとされる。

マンデルソン氏の大使任命にかかわった役割をめぐり今年2月に首相補佐官の役職を辞任した、モーガン・マクスウィーニー氏と親しい人たちがBBCに、審査結果をマクスウィーニー氏は知らなかったと話した。

一方、ガーディアンの報道によると、マンデルソン氏が安全保障当局の審査に合格していなかったことを示す文書を、議会に提出しないことを政府高官らが検討していたという。

これについて政府報道官は、任命に関する文書の「可能な限り早期の、完全な」公開を求める議会の決議に、政府としてしっかり従っていくと述べた。

首相辞任の要求が再び

今回あらためてマンデルソン卿の審査について新事実が明らかになり、大使任命に対する人々の怒りが再燃している。また、首相の判断力がいっそう疑問視される事態となっている。

首相の辞任を求めている最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、スターマー氏について、「マンデルソンの安全保障審査での不合格を知りながら議会やテレビで繰り返しうそをついたか、あるいは(合否を)知りも確認もしないまま(マンデルソン卿が)安全保障審査に合格したと言ったかの、どちらかだ。もし後者なら、救いようがないほど無能ということになる」と述べた。

野党・自由民主党のエド・デイヴィー党首も、マンデルソン卿の安全保障審査での不合格を首相が知らなかったのが事実なら、首相は「メディアがその事実を暴き出すのを待たず、可能な限り早期に議会で報告すべきだった」と批判。「そうしなかっただけでも、閣僚行動規範に違反しているのは、間違いない」と付け加えた。

その他の野党のリフォームUK、緑の党、プライド・カムリ(ウェールズ党)もそれぞれ、マンデルソン卿の審査について首相がうそをついたと批判し、辞任を求めている。

一方、野党・スコットランド国民党(SNP)は、首相が意図的に国民を欺いたのか調査するよう求める書簡を、閣僚倫理に関する独立顧問ローリー・マグナス氏に送った。

SNPのイングランドでのスティーヴン・フリン下院院内総務は、「首相は無能か、簡単にだまされるか、うそつきだ。それか、そのすべてだ」と述べた。

与党・労働党内の下院議員は、ガーディアン報道を機にした新事実に「言葉を失っている」とBBCに話した。スターマー氏を長年批判してきた同党関係者は、「内閣はもちろん、自分たちが死に体だとわかっているはずだ」と述べた。

ロンドン警視庁は2月23日、マンデルソン卿を公務中の不正行為の疑いで逮捕した。警察は、マンデルソン卿が労働党の閣僚だった当時、市場に影響を与える可能性のある政府情報を米富豪ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)に渡した疑いで捜査している。

マンデルソン卿は翌日に保釈され、3月には保釈条件も解除された。

BBCは、マンデルソン卿が一切の犯罪行為を否定し、金銭的利益を動機に行動していないと主張しているとの情報を取材で得ている。