宇宙船オリオンが太平洋に着水、9日間の月への往復終える

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米航空宇宙局(NASA)が主導する国際月探査プロジェクト「アルテミス計画」の第2弾として打ち上げられた宇宙船オリオンの乗員モジュール(カプセル)が、米中部夏時間10日午後7時過ぎ(日本時間11日午前9時過ぎ)、太平洋の米カリフォルニア州沖に着水(スプラッシュダウン)した。月の「裏側」を回って地球へと戻る、往復約111万7659キロの旅が完了した。
乗組員のリード・ワイズマン宇宙飛行士は、着水の際に「なんて旅だ」と通信した。
「姿勢は安定、4人全員が良好な状態だ」と同氏は述べ、乗員カプセルの状態とチームの健康状況を説明した。
回収船が宇宙船に向かい、まず医務員たちが船内に入り、乗組員の状態は良好だと確認した。
続いて、宇宙船から移動するための「フロントポーチ」と呼ばれる膨張式いかだが展開され、飛行士4人が一人ずつ、宇宙船を出ていかだに移動した。一人一人がオリオンの船外に出て無事にいかだに乗るごとに、見守るテキサス州ヒューストンの管制センターでは大きな歓声が上がった。
4人はその後、ヘリコプターで米海軍のドック型輸送揚陸艦「ジョン・P・マーサ」に乗船した。同艦艇は、宇宙船オリオンの乗員カプセルを海から直接収容できるほど大きな、注水式の貨物倉を備えている。
乗組員は今後、航空宇宙医学を専門とする医師らによって、脈拍、血圧、脳および神経の反応、そして平衡感覚について検査を受ける予定。

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宇宙船オリオンは日本時間2日午前に米フロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げられた。地球の周回軌道から月へ飛行し、7日午前に月の「裏側」を通過。人類として地球から最も離れた距離に達した。その後、地球の引力を使って帰還した。
大気圏への再突入時には、すべての通信が遮断される6分間の「ブラックアウト」があった。
NASAによると、着水の正確な時間は米中部夏時間の10日午後7時7分27秒。任務の総所要時間は、9日1時間32分15秒だった。
NASAは今回の帰還を「教科書通りの着水」と評価している。

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着水後の記者会見で、NASAオリオン計画の責任者ハワード・フー氏は、きょうは「有人宇宙探査の新たな時代の始まり」だと述べた。また、再突入ディレクターを務めたリック・ヘンフリング氏は、来年予定されている次の任務について、「もう目前に迫っている」と語った。
亡くなった父親と「スター・ウォーズ」の映画を見るのが大好きだったというフー氏は、「スター・ウォーズ」と比べてアルテミス2計画はどうかと記者に質問され、「何千倍もいい」と笑いながら答えた。

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NASAのロリ・グレイズ副長官代行は任務のどの部分が印象的だったかと質問されると、日食の観測が「まったくほかにない体験だった」と話した。また、オリオンのクルーは宇宙からさまざまな目覚ましい画像を送ってきたのに加え、「大量のデータを集めた」ので、NASAは今後、その解析にあたることになると述べた。
アミット・クシャトリヤ副長官は、「これからの仕事は、すでに達成した仕事よりも大きい」と述べたうえで、「彼らが始めたことをやり遂げよう(中略)旗を立てて立ち去るのではなく、そこにとどまるために行こう」と、今後の有人月探査についても触れた。
オリオンのカプセルを離れて以降、宇宙飛行士ら本人たちから直接の発言はまだ伝えられておらず、しばらくの間は聞かれない可能性がある。
宇宙での滞在は、アルテミス2の乗組員にとって身体的に非常に過酷なものだったとみられ、4人全員が医療チェックを受ける必要がある。その後、焦点は家族との再会に移ることになる。
NASAの関係者によると、4人は現地時間11日中に、ヒューストンのジョンソン宇宙センターに戻る予定。
この会見の前、NASAのジャレッド・アイザックマン長官は、着水する様子を見て言葉を失ったと語り、「子どもの頃の自分は、いま目にしたものが信じられない」と話した。
興奮した様子の長官は、「これはまだ始まりにすぎない」、「私たちは再び、宇宙飛行士を月へ送り、無事に地球へ戻す。そのための事業再開だ」とも述べた。
ドナルド・トランプ米大統領は、ソーシャルメディアへの投稿で乗組員の帰還を歓迎。近く、乗組員をホワイトハウスに招待すると発表した。
また、「我々は再び挑戦する。そして次の段階は、火星だ」とも書いた。
ブラックアウト、緊張の6分間
パラブ・ゴーシュ科学担当編集委員
宇宙船オリオンは帰還の際、ハワイ南東沖の高度12万2000メートルから通信のブラックアウトに入った。
乗員カプセルはこの時、時速約3万8400キロメートルで飛行していた。この高度の大気は非常に薄いものの、それでも機体との摩擦を引き起こす。大気は圧縮され、加熱され、電離される。分子から電子がはぎ取られ、耐熱シールドの周囲にオレンジ色や黄色に輝くプラズマを形成する。
この時、シールドの温度は摂氏2760度に達する。「太陽表面温度のおよそ半分」というよく使われる表現は、この体験がいかに危険で、現実離れしたものかを端的に示している。
大気突入の際の摩擦は、宇宙船の帰還時に起きる現象の中で最も激しいものだ。そして、プラズマの泡は熱を生み出すだけではなく、あらゆる無線周波数の送受信が遮断される。
オリオンからの信号はない。声もない。船の状態を示す様々なデータ、つまりテレメトリーもない。ヒューストンの管制官たちは何も見ることができず、物理法則と事前の計画に基づいて、火の玉と化した宇宙船の中にいる乗組員4人に何が起きているのかを計算することしかできなかった。
この間、乗組員は最大3.9G、すなわち重力のおよそ4倍に近い減速を受け、座席に強く押し付けられていた。
そして6分後、無事に通信が回復した。
予定どおりにプラズマが消散し、テレメトリーがジョンソン宇宙センターに一気に戻り、パラシュートが展開された。
第1弾では耐熱シールドに懸念も
レベッカ・モレル科学オンライン編集長
宇宙船オリオンのカプセルが地球の大気圏を猛スピードで通過する際、約2700度の高温にさらされた。これは太陽表面の熱の半分に相当する。
宇宙飛行士と、この灼熱の温度との間にあるのは、熱防護シールドだけだ。
「アルテミス」計画の第1弾では、無人飛行した宇宙船の耐熱シールドが深刻な損傷を受けた。
シールドを覆っている「アブコート」と呼ばれる素材は、溶けて気化することで激しい熱を吸収し、逃がす設計だった。
しかし、この素材の大きな塊が剥がれ落ち、シールドには焦げた穴が点在していた。
調査の結果、NASAの技術者たちは原因を特定したと述べた。再突入の際にカプセルが高温にさらされる時間が長すぎたため、アブコートの下部に熱と圧力が蓄積し、ひび割れが生じて不均一に剥離したという。
「アルテミス2」では、耐熱シールド自体は変更していない。ただし、宇宙船の再突入角度を調整し、高温にさらされる時間が長くならないようにした。











