「ノーの意味はノー」 グリーンランド住民、新しい米領事館前でトランプ氏に抗議

さまざまな年齢の男女が集まっている。「アメリカがいなくなるようにしよう!」と書かれたプラカードを右手で掲げる女性は、カメラを正面から見つめている。

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画像説明, 「アメリカがいなくなるようにしよう!」と書かれたプラカードや、グリーランドの紅白の旗を手に抗議する人たち(21日、グリーンランド・ヌーク)
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エイドリアン・マリー(グリーンランド・ヌーク)

デンマークの自治領グリーンランドの首都ヌークで21日、新しいアメリカ領事館の前に数百人の住民が集まり、グリーンランドへの影響力拡大を目指すドナルド・トランプ米大統領に抗議した。

トランプ大統領が2025年12月にグリーンランド特使に任命した米ルイジアナ州のジェフ・ランドリー知事は、特使として今週初めてグリーンランドを訪れた。

抗議を主催したアッカルクルク・フォンテイン氏(37)は、「私たちの政府はすでに、グリーンランドは売り物ではないとトランプ政権に伝えている」と述べた。

トランプ氏はかねて、国家安全保障上の理由からアメリカにはグリーンランドが必要なのだと主張し続けている。警戒心を強めるデンマークをはじめとする欧州諸国との緊張緩和を模索する外交努力が続く中で、新しい米領事館が開かれ、ランドリー特使の訪問となった。

抗議に参加した数百人は市中心部を行進し、「グリーンランドはグリーンランド人のものだ」と連呼。その後、沈黙したまま領事館に背を向けて抗議した。

フォンテイン氏はBBCに対し、「私たちはアメリカと、全世界に伝えたい。民主主義社会において、ノーの意味はノーだ」と語った。

抗議に参加したインゲ・ビスゴア氏は、ランドリー特使の訪問は敬意を欠いていると批判。「このようなことは許されないと、示すのが本当に大事」だと述べた。

ビスゴア氏はさらに、「アメリカを本当に恐ろしく思う。誰もが前回の脅しからやっと落ち着いたと思った矢先に、今年1月にまた始まった」と、グリーンランド所有を主張し続けるトランプ氏を念頭に話した。

抗議に参加したパルヌナ・オルセン氏(25)は、そもそもなぜアメリカがグリーンランドに領事館を置く必要があるのかと問いただした。

灰色の建物の前、グリーンランドの旗やプラカードを手にした人たちが行進している

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画像説明, 新しい米領事館の開設に抗議する人たち(21日、グリーンランド・ヌーク)

グリーンランドをめぐり重要な外交交渉が続く中、トランプ氏と親しいランドリー氏は、正式な招待なしにグリーランドを訪れ、批判された。

ランドリー氏は20日夜にアメリカへ帰国し、21日にトランプ氏と会談する予定だったとみられる。

アメリカのグリーンランド領事館はかつて、小さい木造の建物だった。ヌーク中心部の目立つ場所に移転した新しい領事館は、面積3000平方メートルの高層ビルだ。

地元住民はこの建物を「トランプ・タワー」と呼んでいる。アメリカとの関係が難しい状態にあるだけに、この移転は大きな出来事で、一部の住民は歓迎していない。

館内では開設を記念し、アメリカ国歌がウクレレで演奏された。アメリカのケネス・ハウリー駐デンマーク大使が銘板を除幕し、グリーンランドとの関係強化に期待を示した。

「北極圏は明らかに世界的に重要な地域だ」と大使は言い、「皆さんが同盟国・パートナーとして今後どういう未来を選ぶにしても、私たちは常に近隣同士で、共にいる」と述べた。

白壁に青い幕がかけられ、星条旗や合衆国憲法の文言が描かれている。その前の檀上にウクレレやギターを持った男性2人と髪に花飾りをつけた女性が立ち、さらにその前に青いスーツ姿の男性が手に紙を持ち、マイクに向かって話している。その横には「アメリカ合衆国領事館」と黒字に黄色い文字で描かれた銘板が国旗の上に立てかけられている

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画像説明, 新しい領事館の開館式に出席したアメリカのケネス・ハウリー駐デンマーク大使

この式典に、グリーンランドの政治家の多くは出席しなかった。グリーンランド自治政府のイェンス=フレデリク・ニールセン首相は出席を辞退し、閣僚も参加しなかった。

デンマーク議会のグリーンランド選出議員ナーヤ・ナタニエルセン氏も招待を断ったとBBCに認め、「今はどういうメッセージを発信するかが大事だ」と話した。

ランドリー米特使のヌーク訪問はビジネスサミット出席が目的とされたが、そのイベントにはほとんど参加しなかった。

3日間の滞在中に特使は「関係強化と『友好関係』構築」のため、ニールセン首相や現・元外相、複数の企業関係者と会談した。

しかし、この「懐柔」作戦を不安に思う人が相次ぎ、一部のグリーンランド人は面会を拒否した。

地元紙によるインタビューでランドリー特使は、グリーンランド独立への期待をあおり、「グリーンランドが独立国になれば、地元経済は今まで同じくらいの、あるいはそれ以上に良くなるかもしれないと思う」と述べた。

グリーンランドの主権について、「レッドライン(超えてはならない一線)」を尊重するのかという質問には、「私たちには、ラインは一つしかない。その色は、赤・白・青だ」と答えた。

ホワイトハウスはトランプ氏とランドリー氏との会談の詳細を明らかにしていない。BBCに対しては、「グリーンランドにおけるアメリカの安全保障上の利益に対応するうえで、良い方向へ進んでいると、アメリカは楽観視している」と述べた。

また、「ランドリー知事は優れた仕事をしており、トランプ大統領のチームの重要な存在だ」と評価した。

北極圏にあるグリーンランドを中心に、周りを囲むロシア、カナダ、デンマーク、イギリス、アメリカの位置を示す地図

トランプ氏はこれまで繰り返し、アメリカの国家安全保障にとってグリーンランドが戦略的に重要なのだと主張し、その取得が必要なのだと訴えてきた。

今では「作業部会」が解決を模索しており、アメリカは軍の駐留拡大を求めているが、合意には至っていない。

冷戦中にはグリーンランドに米軍基地が17カ所あったが、現在は1カ所のみとなっている。

今年4月には米北方軍の報道官が、既存のピトゥフィク宇宙基地のインフラ改善を検討していると発言した。さらに、「ナルサルスアクやカンゲルルススアクなど他の拠点の検討」も議題に上っていると述べた。

グリーンランド自治政府のニールセン首相はランドリー特使との会談後、両国の協議は「進展していると思う」と記者団に述べた。しかし、米紙ニューヨーク・タイムズは18日、グリーンランド側はアメリカ側の要求があまりに多大なため、アメリカによる主権侵害を強く懸念していると報じた。

ニューヨーク・タイムズによると、アメリカは米軍の無期限駐留を要求しているほか、中国やロシアがグリーンランドで影響力を持つ可能性を排除するため、グリーンランドへの大規模投資に関して拒否権を求めているという。

22日には、マルコ・ルビオ米国務長官がスウェーデンで北大西洋条約機構(NATO)の外相会議に出席し、グリーンランドと周辺の安全保障について協議する見通し。