死刑執行を生き延びた米死刑囚、重体で救命治療中 弁護団が説明

画像提供, Tennessee Department of Correction
ブランドン・ドレノン
アメリカ・テネシー州での死刑執行で、致死量の薬物を2回にわたって注射されながら生き延び、病院に搬送された死刑囚について、弁護団は1日、「重体となり、救命治療を受けている」と明らかにした。こうした事態を受け、テネシー州知事は年内に予定されていたすべての死刑執行を停止した。
クリスタ・パイク死刑囚(50)の死刑執行は、30日午後8時ごろ、ナッシュヴィルのリヴァーベンド最高警備刑務所で始まった。
AP通信によると、薬物ペントバルビタールが2回投与され、証人室のカーテンは2回閉じられた。立ち会っていた報道機関の記者らは、ある時点で退室を求められたという。
パイク死刑囚の弁護団は、死刑執行のさなかに、執行の停止を緊急に申し立て、「パイク氏は意識を失っているが、心臓はまだ動いており、いびきの音を立てている」と主張した。
ランディ・スパイヴィー弁護士は1日、「現時点では、彼女(パイク死刑囚)の今後の見通しや健康状態に関する最新情報はほとんどない」が、「彼女が今も生存していることは確かだ」と記者団に語った。
弁護団は現在、パイク死刑囚の減刑を求めている。
パイク死刑囚は1996年、コリーン・スレマーさんを殺害した罪で死刑判決を受けた。裁判では、当時恋人だったタダリル・シップ受刑者と共に、問題のある10代向けの職業訓練キャンプで知り合ったスレマーさんを殴打、拷問、殺害したと認定された。事件当時、スレマーさんは19歳、パイク死刑囚は18歳だった。
パイク死刑囚の刑の執行をめぐっては、弁護団が直前までたびたび法的異議を申し立てていた。最終的に、連邦最高裁が薬物注射による刑執行を認めた。
パイク死刑囚の死刑執行を待ち続けたスレマーさんの母親のメイ・マルティネスさんは、死刑執行が完了しなかったあと、米NBCニュースに対し、「ひどい事態だ」と述べた。現在、フロリダ州に住んでいるマルティネスさんは、死刑執行に立ち会うためにテネシー州を訪れていた。
何があったのか
パイク死刑囚の弁護団は1日午後、秘密に包まれた死刑執行の現場で起きた悲惨な光景について、さらなる詳細を明らかにした。
スパイヴィー弁護士は、「昨夜、刑執行チームは1時間にわたり、静脈への注射を試みた」とし、「彼女(パイク死刑囚)の左腕だけで少なくとも7本の針が使われたことを確認した。このうち1本は、注射に失敗して腕から抜かれた際に曲がったと思われる」と述べた。
スパイヴィー弁護士によると、2回目の薬物投与後、立会人らはカーテンが閉じられた暗い部屋に留め置かれた。投与から数分後も「パイク氏が呼吸し続けているのは明らかだった」という。
「カーテンの向こう側で何が起きているのか、誰にも分からなかった」とスパイヴィー弁護士は述べた。「医療関係者がいつ支援(救命措置)を始めたのか、そもそも支援を開始したのかは私には見当もつかなかった」。
スパイヴィー弁護士は、州知事は今こそパイク死刑囚の刑を減刑しなければならないと主張した。パイク死刑囚側はすでに減刑を嘆願していたが、退けられている。
スティーヴン・フェレル弁護士は、ほかの法的手段も検討していると明らかにした。
「この件についてじっくりに検討したい。クリスタ(死刑囚)が回復し、自分が何を希望するのか意見を示せるようにしたい」と、フェレル弁護士は述べた。
テネシー州のビル・リー知事は独立調査の実施を命じた。リー知事は1日、死刑執行の失敗に関する調査を「徹底的に行う」とし、「時間がかかるだろう」と付け加えた。
「多くの疑問がある」とも知事は指摘。「州民には、これらの疑問に対する回答を得る権利がある。そのために今回の調査を行う」とした。
知事は、州の死刑執行手続きに関する独立調査を誰が担当するのかは明らかにしていない。
リー知事は、年内に予定されている全ての死刑執行の一時停止を命じた。12月3日には、殺人罪で死刑判決を受けたギャリー・サットン死刑囚の刑執行が控えていた。
今回の死刑執行を担当したテネシー州の矯正局は声明を発表し、当局の対応は正しいものだったと主張した。
矯正局は声明で、「州司法長官事務所が承認した、合法的で確立された州の死刑執行手順をすべて順守したものだった」と説明。
「手順で示されている致死注射薬は一貫して効果を発揮している。今夜実施された以上の追加処置は、手順では認められていない」とした。
弁護団が裁判所に提出した文書によると、テネシー州で定められた手順に従い、最初の投与が失敗したため、薬物ペントバルビタールがもう1度投与された。それでもパイク死刑囚は生き延びたという。
「今回の死刑執行はパイクさんに不必要な苦痛を与えており、残虐で異常な刑罰を受けないという権利を侵害している」と弁護団は主張した。
テネシー州司法長官事務所は声明で、調査を求めるという決定に同意すると表明し、「何が起きたのかを把握する必要がある」と述べた。
テネシー州知事選への出馬を表明している共和党のマーシャ・ブラックバーン連邦上院議員は、今回の事態を「悲劇的」と形容した。
ブラックバーン議員は、「何が起き、なぜ(執行)手続きが失敗したのかを徹底的に検証すべきだ。答えは単純だ。電気椅子を復活させればいい」と主張した。
州知事選でブラックバーン議員と争う民主党のジェリー・グリーン候補は、ブラックバーン議員が「死刑執行の最も残酷な形態の一つを復活させようとしている」と批判した。
グリーン候補は、「自分が知事になれば、今後予定されるすべての死刑執行を一時停止する」とソーシャルメディアに投稿した。
テネシー州で予定通りに進まなかった死刑執行は今年これで2件目。
1994年に3人の誘拐および殺害の罪で死刑判決を受けたトニー・カルーサーズ死刑囚の死刑執行は5月、薬物を注射するための静脈が見つからなかったために1年延期された。
(追加取材: ステファニー・ヘガティ、BBCワールドサービス)










