【解説】 衛星通信「スターリンク」、なぜウクライナの戦場で非常に重要なのか

迷彩服に迷彩柄の布で顔を覆ったウクライナ兵が、黒いコードを持っている
画像説明, 演習中に衛星通信「スターリンク」を使用するウクライナ兵(2023年)
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トム・マッカーサー

米富豪イーロン・マスク氏の宇宙企業スペースXが運営する衛星通信サービス「スターリンク」は、高速インターネット接続を提供している。現代の戦争は、こうした通信網に大きく依存している。

ウクライナ政府は、戦場で不可欠な通信手段としてスターリンクを導入し、ドローン戦でも活用している。

スターリンクを利用することで、ウクライナのドローンは従来の無線通信網を用いる場合よりも、より離れた場所にいる操縦者とより安定した接続を維持できる。また、通信妨害の影響も受けにくい。

しかし、ウクライナ政府高官によると、スターリンクに接続されたドローンに対して突如、速度制限がかかり、戦場での一部の「任務」に支障が出ているという。

ウクライナ国防省の顧問を務める軍事技術専門家、セルヒー・ベスクレストノフ氏は、スペースXが13日夜に設定した時速約160キロの速度制限について、ウクライナ側は事前に知らされていなかったと明らかにした。

アメリカのシンクタンク「戦争研究所」(ISW)によると、スターリンクのネットワークに接続されたドローンの通信速度が比較的低速に制限されると、ロシアのジェット推進型ドローンを迎撃しようとするウクライナ側の取り組みは無に帰してしまうという。

迷彩服姿の兵士が、黒いコントローラーを両手で持ち、平地が映るモニターを見ている
画像説明, スターリンクはウクライナのドローン操縦者の能力を向上させている。画像はスターリンクに接続した端末を使用する兵士

ウクライナの軍事通信を支える

ISWのジョージ・バロス氏はスターリンクについて、「ウクライナでの軍事通信の根幹」で、ウクライナの海上、地上、航空部隊で広く利用されていると説明する。

ISWの革新・公開情報分析部門を率いるバロス氏は、スターリンクの技術は「ドローン、砲兵、指揮所を単一のリアルタイム通信網として機能させ、標的をセンサーで探知してから攻撃するまでの時間を最小限に抑えることができる」ため、今回の速度制限は重大な影響を及ぼす可能性があると、BBCに語った。

スターリンクはロシア国内では利用できないが、ウクライナのドローンはロシアへの攻撃を仕掛ける間、スターリンクを通じて操縦者と通信できる。現時点では、この通信網に代わる、即戦力となる手段は存在しない。

バロス氏によると、スターリンクに接続された迎撃システムは、ロシア軍のジェット推進型ドローン「シャヘド」に対抗するうえで、ウクライナが保有する最も有効な手段の一つでもある。

シャヘドは時速約320キロを超える速度で飛行する。スペースXによる速度制限によって、ウクライナがこれを追跡することはほぼ不可能になる。

大量のデータを送受信

イギリスの王立防衛安全保障研究所(RUSI)のアソシエイトフェローで、電子戦の専門家トム・ウィッティントン氏は、BBCラジオ4の番組「PM」に対し、スターリンクを使えばウクライナは映像やテキスト、音声通話などの大量のデータを送受信できると説明した。こうしたやり取りはスマートフォンと同様だが、スマートフォンの利用に必要なインフラは必要ない。

ウィッティントン氏は速度制限について、スターリンクに接続されたあらゆるものが時速約160キロを超える速度で移動することを「事実上、不可能にするもの」だと指摘。ウクライナ国内、そしてロシアが占領するウクライナ領内でドローンを飛行させることが難しくなるとした。

前出のウクライナのベスクレストノフ大統領顧問は、スターリンクの通信速度が制限されたのは偶然ではなく、ウクライナとアメリカの最近の緊張関係が関連しているとの見方を示した。

アメリカのドナルド・トランプ大統領はこのところ、ウクライナによるロシア国内の製油所への長距離攻撃を批判し、ウクライナには新たな指導者が必要だと主張している。スターリンクを運営するマスク氏も、トランプ氏に同調している。

米国防総省向け軍事通信網「スターシールド」

ウクライナ側が速度制限に抗議したことで、スターリンクだけでなく、スペースXが米国防総省向けに開発した軍事通信網「スターシールド」も注目されている。

マスク氏は、スターリンクとスターシールドは別物だと説明している。しかし、多くの場合、その基盤となる衛星技術は共有されている。

マスク氏は14日、ソーシャルメディアへの投稿で、ウクライナが利用するスターリンクでの速度低下について、米政府が関わっている可能性があると示唆した。

マスク氏は、「スターシールドのシステムは米政府が所有・管理している。速度や使用に関する制限は、米軍、そして最終的には米大統領によって決定される」と書いた。

マスク氏はさらに、スターリンクは「民間または防衛活動のためのものであり、攻撃的な軍事行動に使用することはできない。そのようなことは商企業にとって不適切だからだ」と付け加えた。

ロシア軍の利用も制限

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2022年2月、ウクライナへの全面侵攻を開始した。ロシアは現在、ウクライナ領土の約20%を支配下に置いている。

4年におよぶこの戦争では、スペースXの衛星通信がウクライナ、ロシア両軍にとって重要な役割を果たしてきた。ロシア軍による、走行中の旅客列車への攻撃でも、スターリンクが使用されたとされる。

ただ、マスク氏は今年2月、ロシア軍によるスターリンクへのアクセスを遮断した。この措置は、ロシア軍の進軍を鈍らせ、同軍の指揮官らに混乱をもたらした。