イスラエル警察が10人逮捕 ヨルダン川西岸での記者・外交官襲撃に関与の疑い

明るい巻き毛の女性が、水色の服を着て、病院のベッドで上半身を少し起こして話している。左手の指に包帯と医療用テープが巻かれ、手の甲に留置針がテープで固定されている
画像説明, 米紙ワシントン・ポストのフォトジャーナリスト、ハイディ・レヴィン記者は、入植者の一団に地面に押し倒され繰り返し蹴られた(16日、ヨルダン川西岸地区ラマラの病院)
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デイヴィッド・グリッテン

イスラエル警察は19日、イスラエルが占領を続けるヨルダン川西岸地区でイスラエル人入植者らがアメリカ人ジャーナリストとヨーロッパの外交官らを襲撃した事件をについて、容疑者10人を逮捕したと発表した。

警察によると、暴力行為、軍事区域立ち入り禁止命令違反、違法建築の疑いで、容疑者たちを複数の場所で拘束し、証拠品や車両を押収した。氏名は公表していない。

覆面をしたイスラエル人入植者たちは16日、パレスチナのアブ・ファラ村でオリーブの収穫を取材していた米紙ワシントン・ポストのフォトジャーナリスト、ハイディ・レヴィン記者を殴打し、重傷を負わせた。

その翌日には近くのタイベで、覆面をした入植者たちが現地調査をしていたベルギー、フランス、ポーランドの外交団とキリスト教カトリック教会の使節を襲撃した。

木々や低い石垣がある地域で、覆面をした人たちが白い車の近くで立っている。すぶそばのトラックのような車両の座席にも、覆面をした人が座っている
画像説明, 覆面をした入植者らが欧州外交官らの車列を襲ったとされ襲ったとされる(17日、ヨルダン川西岸地区タイベ)

アメリカのマイク・ハッカビー駐イスラエル大使は、今回の逮捕を歓迎した。

「ハイディ・レヴィンをひどく攻撃し殴打した者たちを見つけ出し、処罰するという非常に前向きな進展だ」と、大使はXに書いた。

国連の記録によると、ヨルダン川西岸における入植者による暴力は過去最高水準に達している。特に、パレスチナ人の生活に不可欠なオリーブの収穫期に、暴力は劇的に激化した。

イスラエルの人権団体イェシュ・ディンは18日、過去20日間にオリーブの収穫に直接関連する暴力事件が269件発生したと発表した。収穫作業員に対する暴力や暴行事件98件、農作物の盗難、オリーブの木の損傷や放火などが含まれるという。

BBCの取材班は16日、ヒルベト・アブ・ファラ近郊でオリーブの収穫が行われていた際に起きた、入植者による襲撃事件の一つを目撃した。地元当局によると、この襲撃でパレスチナ人12人が負傷。その中にはパレスチナ系アメリカ人およびパレスチナ人の二重国籍を持つ4人と、ワシントン・ポストのベテラン写真記者のレヴィン氏も含まれていた。記者は体の前後に「PRESS(報道)」と明記された防弾チョッキを着ていた。

レヴィン記者によると、入植者の一団に地面に押し倒され、何度も蹴られ、カメラと携帯電話を奪われたのだという。

病院に収容されたレヴィン記者は、椎骨を4箇所骨折し、肋骨も1本折れ、全身に裂傷を負った。指は深く裂けており、手術が必要だった。

記者は19日、イスラエル中部にある病院のベッドからBBCのラジオ番組「トゥデイ」の電話インタビューに応じ、「もっとひどいことになっていた可能性もあった」と話した。

「私たち(ジャーナリスト)は、防弾チョッキやヘルメットをいつも着たいわけではない。重いし、周りの人が着ていないとちょっと恥ずかしいし、自分が滑稽だと思うこともある。でも、ありがたいことに、あの時はみんな着ていた」

「(防具を着けていなかったら)間違いなく、もっと深刻なけがを負っていたと思う。特に頭部は。できる限り顔を地面につけていたおかげで、頭を守ることができた(中略)推測ではなく、本当に本当に幸運だったと思っている」

オリーブの木立の前、泥の道を、防護ヘルメットと防弾チョッキを来た女性が、赤いチョッキを来た男性に支えられて歩いている
画像説明, 入植者に襲撃された後、支えられて歩くレヴィン記者(16日、ヨルダン川西岸地区アブ・ファラ)

ハッカビー大使はレヴィン氏への襲撃を「覆面をした卑怯者による卑劣なテロ行為」と呼び、実行者たちは長年刑務所で過ごすべきだと述べた。

マルコ・ルビオ米国務長官は、ドナルド・トランプ大統領は「ヨルダン川西岸地区での摩擦などといった危機を望んでいない」と述べた。

イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領は、「今回の攻撃の実行犯たちの卑劣な行為は、イスラエル国民やイスラエル国家の価値観を代表するものではない」とレヴィン記者に伝えたと述べた。

17日には、ベルギー、フランス、ポーランド各国の外交団とカトリック教会の使節団が、アブ・ファラの南約6キロにあるタイベを訪れ、オリーブの収穫を視察した。

ベルギーのマキシム・プレヴォ外相は、同国領事館の車両が損傷を受け、フランスのベルナール・ボードゥー市長が襲われたと述べた。

現場の映像には、覆面をした入植者たちが車列に立ち向かう様子や、フランスの三色旗のたすきを着けた男性が車の横で倒れている様子が映っている。投石の報告もある。

プレヴォ外相は、この襲撃を厳しく非難。イスラエルには、関与した人物を裁きにかける責任と、外交官、ジャーナリスト、パレスチナ人の安全を確保する責任があると述べた。

「パレスチナ人は日々、こうした暴力に直面している。入植者らは、それを報告するジャーナリストや外交官らも標的にしている。オリーブの収穫、ニュースの報道、外交任務の遂行は、決して攻撃の危険にさらされるべきではない」

欧州連合(EU)も声明で、「この襲撃を強く非難する」と述べ、当事者が「完全に責任をとらされる」よう期待するとした。さらに、「パレスチナ人に対して続く暴力と暴力的ないやがらせを防止するための効果的な対策」も期待すると述べたうえで、イスラエルに対して、「国際法および人権法を全面的に順守し、入植地の拡大を終わらせる」よう強く求めた。

国際社会からのこうした非難をよそに、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の事務所は、アブ・ファラとタイベでの事件について、動画の記録や証言を疑問視した。

首相事務所は、襲撃があったと「される」という言い方をして、イスラエルおよびヨルダン川西岸の入植者を中傷するための「組織的なキャンペーン」が繰り広げられている中で起きたことだと主張した。

レヴィン記者はこれについてBBCに対し、「イスラエルの大統領から電話があった。とても親切な人で、襲撃犯を凶悪犯と呼び、逮捕するために全力を尽くすと約束してくれた」と述べたうえで、「首相の反応について記事を読んだばかりで、衝撃だった。顔を平手打ちされたようなものだ」と話した。

記者は、ネタニヤフ首相は入植者に対し攻撃をやめるよう「明確なメッセージ」を送るべきだったと述べ、「むしろ首相は『攻撃を続けろ』と言っているように思った」と批判した。

イスラエルは1967年の第3次中東戦争でヨルダン川西岸地区と東エルサレムを占領して以来、約160の入植地を建設し、イスラエル人70万人を住まわせている。パレスチナ人はこの土地を、ガザ地区とともに将来の国家建設のために求めている。ヨルダン川西岸と東エルサレムには、推定330万人のパレスチナ人が住んでいる。

イスラエルによる入植地は国際法上、違法だ。

国連統計によると、今年に入ってからヨルダン川西岸地区でイスラエル軍または入植者に殺害されたパレスチナ人は少なくとも96人に上る。そのうち25人は、入植者による攻撃の中で殺害された。

国連によると、同じ期間にヨルダン川西岸地区でパレスチナ人によって殺害されたイスラエル人は、治安部隊員と民間人を含めて4人だという。

イスラエル警察のダニエル・レヴィ長官は、ヨルダン川西岸では「身分や所属に関係なく」等しく法律が適用されると述べた。

しかし、パレスチナ人を攻撃したとされたイスラエル人入植者が起訴されるケースはめずらしい。

イェシュ・ディンによると、ヨルダン川西岸地区でイスラエル人が2005年から2025年の間に、イデオロギーを動機にパレスチナ人に対して行った犯行のうち、イスラエル警察が捜査した事件の93%以上が起訴に至らなかった。