ファラージ氏が英下院補選勝利、「顔がごみ箱伯爵」は過去最多の9500票近く獲得するも及ばず

白い幕を前に壇上に並んだ候補者たち。中央の「顔がごみ箱伯爵」が黒い手袋をはめた両手でピースサインを作っている。左右の候補者たちは笑顔で拍手している

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画像説明, 英下院補選で2位となった「顔がごみ箱伯爵」。当選したファラージ氏は開票結果の読み上げに出席しなかった(14日、英南東部クラクトン)
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イギリスの野党リフォームUKを率いるナイジェル・ファラージ党首が下院議員を辞職したことに伴う補欠選挙が、英南東部クラクトン選挙区で13日に行われ、14日にファラージ氏が再選された。さまざまなスキャンダルを追及されていたファラージ氏は議員辞職の上、有権者に信を問うとしてあらためて出馬していた。対立候補として注目された「ビンフェイス伯爵」(ビンフェイスは「顔がごみ箱」の意味)は、本人にとって過去最多の9455票を得て2位になった。

13日のクラクトン下院補選の投票率は44.37%。14日早朝まで続いた開票作業の結果、ファラージ氏は2万2239票を得て当選した。得票率は63.3%だった。与党・労働党や最大野党・保守党など主要政党は、この補選に候補者を出さなかった。

候補者の総数は34人と、現代の下院補選の候補者数としては過去最多と言われている。ファラージ氏のほかは、無所属候補や下院に議席を持たない政党の候補だった。

開票結果がクラクトン・レジャーセンターで読み上げられた際、ファラージ氏もリフォームUK関係者も欠席していたこともあり、ファラージ氏の当選を喜ぶ歓声はなかった。

他方、「ビンフェイス伯爵」ことジョナサン・デイヴィッド・ハーヴィー氏は、9455票を獲得した今回の結果によって、「クラクトン市民の判断」を直接聞くことができたことを「うれしく思う」と述べた。

「伯爵」はさらに、「8週間前のメイカーフィールド補選では95票だった。だからアンディ・バーナムと比べると、ナイジェル・ファラージ相手には私は1000倍人気があるということになる」、「それが、彼が今夜ここにいない理由と何か関係があるのかな?」と皮肉を込めて述べた。

6月18日のメイカーフィールド下院補選で下院議員に復帰したバーナム氏は、7月17日に与党・労働党の党首となり、7月20日にイギリス首相に就任した。

ファラージ氏はこの後、ソーシャルメディア「X」に「クラクトンでの結果がすべてを物語っている」と投稿した。

ファラージ氏は14日未明にリフォームUK支持者の集会で、結果発表の会場へは行かないと述べ、「結果発表を妨害し、その価値をおとしめようとする組織的な運動がある」と助言を受けていたと説明していた。「無意味な連中に侮辱されたり辱められたりする」のを避けるつもりだとも話していた。

リフォームUKの報道官は、開票結果発表に欠席するのはファラージ氏が述べたような理由に限らず、「ファラージ氏に対する信ぴょう性の高い脅威があるので、今夜の開票会場には出席しないようエセックス警察が助言した」のだと述べていた。

しかし、BBCの取材で、エセックス警察はどの候補者に対しても開票会場への不参加を勧告していないことが分かった。警察は声明で、「私たちは、開票作業に関わるすべての参加者の安全と治安を確保するため、適切かつ強固な警備体制を敷いていると述べた。

灰色のスーツに白いシャツ、赤いネクタイを着け、右手を挙げてマイクを前に話すファラージ氏。背景にはユニオンジャックの旗が掲げられている。

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画像説明, ファラージ氏は、クラクトンの有権者が「政治のエスタブリッシュメントに反旗を翻した」と述べた。

【解説】ファラージ氏への疑問はなくならない

ジョー・パイク政治担当編集委員

ファラージ氏は今回の選挙戦で勇気づけられ、新たな活力を得たと、支持者は述べている。それはそうだろうと思われる。

クラクトン選挙区では明らかに、ファラージ氏は人気がある。リフォームUKは過去1年半の間、全国の世論調査で圧倒的なリードを保っているし、新興政党の支持者を大々的に集め、政府与党になる本格的な可能性を作り出したその運動は、目覚ましい成果を上げた。

しかし、この補選で勝ったからといって、リフォームUKへの献金に関するロンドン警視庁の捜査はなくならない。ファラージ氏についても、詐欺罪で有罪となった人物との交友関係に関する疑惑、あるいは大富豪の献金者から受け取った500万ポンドの寄付を報告しなかったことに対する、議会の調査もなくならない。

今回の補選を仕掛けたのはファラージ氏自身で、再選されることもまったく予想可能だっただけに、この顛末(てんまつ)には一体何の意味があったのだろう。

同じ選挙区から立候補するために議員をいったん辞職するというファラージ氏の7月の発表は、周りを驚かせた。辞職発表の際にファラージ氏は、「私の行動の是非を判断するのはクラクトンの人たちであるべきだ」と述べ、自分は間違ったことは何もしていないと主張した。さらに「リフォームUKが始めた政治革命を続けるため、闘いたい」とも述べていた。

自分が「革命」を続けることが、記録的な34人の候補者、90センチもの長さの投票用紙、そして最も有力な対立候補がゴミ箱の格好をした男という、奇妙な選挙戦へと発展するなど、本人は予想できたのだろうか?

労働党はファラージ氏が「詮索を逃れようとしている」と批判した。保守党は彼が「かんしゃくを起こした」せいで補選が行われることになったと述べた。

補選の展開そのものは予想できなくても、その費用は予想できたはずだ。イングランドで最も貧困層が多い地域を含むクラクトン選挙区では、今回の補欠選挙の実施に納税者が25万ポンドを負担する必要があると議会は見積もっている。リフォームUKは費用を負担すると申し出たが、そのようなことは選挙法では認められていない。

選挙が終わった今、ファラージ氏は詳細が明らかになっていない自身の資産状況について、再び厳しく追及されるはずだ。

500万ポンドの贈り物

ファラージ氏について特に注目されているのは、500万ポンド(約10億7500万円)の贈り物だ。

2024年の総選挙直前に、タイを拠点とする仮想通貨の大富豪でリフォームUKに巨額献金を重ねてきたクリストファー・ハーボーン氏から、ひそかに500万ポンドを受け取っていたことが明らかになっている。

ファラージ氏が「無条件の贈り物」と表現したこの資金は、英紙ガーディアンが今年4月に最初に伝えた

ファラージ氏は、ハーボーン氏が彼に金銭を渡した理由について、ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)実現への報酬、あるいは自分の残りの人生における身辺警護費用など、さまざまな説明をしてきた。

ファラージ氏がこの金銭授受を申告しなかったため、議員の行動・倫理規定を監督する議会基準委員会が今年5月から調査を続けている。

ファラージ氏は、自分が下院議員になる前の資金提供なので申告の「義務はなかった」としている。「何も悪いことはしていない」と述べ、議会の調査は「政治的な道具として利用されている」とも主張している。

ダークスーツ姿の男性が屋外でカメラを見ている

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画像説明, ハーボーン氏は仮想通貨投資家で、航空業界の起業家でもある

有罪判決を受けた詐欺師

ファラージ氏はまた、同僚から「ポッシュ(上流階級の)・ジョージ」として知られる、イギリス貴族の家系出身のジョージ・コトレル元受刑者から、警備やソーシャルメディア担当スタッフへの資金援助を受けている。

ファラージ氏と旅行中にアメリカの空港で逮捕された元受刑者は、2017年にアメリカで電信詐欺の罪を認め、詐欺罪で有罪判決を受けた。

英紙サンデー・タイムズは今年7月5日、コトレル元受刑者がファラージ氏を支持していたこと、そしてその支持の一環として自分がバッキンガム宮殿の近くに借りていた物件を、ファラージ氏に使わせるなどの便宜も図ったと伝えた。

議会の基準委はこの件を調査しているとは認めていない。ファラージ氏は、自分は規則に従い「不正行為はなかった」とし、ガーディアンへの法的措置を検討していると述べている。

一方、ロンドン警視庁は、リフォームUKへの多額寄付について1年以上、捜査を続けている。これまでに2人を事情聴取したが、逮捕者は出ていないことを明らかにした。

この捜査は、政党への「不適切な」寄付者からの寄付を隠蔽または偽装した疑い、あるいは寄付に関する「虚偽」の情報を使用したという疑いに関するものだと言われている。

リフォームUKの情報筋によると、党幹部は警察の事情聴取を受けていないという。

リフォームUKへの献金に関する警察の捜査と、ファラージ氏が500万ポンドの寄付を申告しなかったことに関する議会調査は今後も続く。しかし、いずれも結論が出るまでには数カ月かかる可能性がある。

今後の課題

ファラージ氏が議会規則に違反したと判断された場合、制裁措置によってまたしても補選が実施される可能性がある。そうなったとしても、同党は再び勝利できると確信している。

党首本人が支持を増やしたことに加え、リフォームUKは今回の補選を通じて、地方有権者のデータを豊富に蓄積した。その点がおそらく、同党にとって最も有益なことだっただろう。

ファラージ氏の資産状況に関する議会の調査が最終的に、主要政党も参加する2度目の補選につながった場合、今回得た有権者データは非常に貴重なものとなる。

それよりもリフォームUKにとって問題なのは、全国的に見た場合、党首の人気が低下しているように見えることだ。

水色と白の車体に、「VOTE REFORM UK」と描かれたバスの前をTシャツ姿の人が歩いている。車窓の向こうにはイングランドの旗が見える

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画像説明, 「リフォームUKに投票しよう」と描かれたバス(4日、クラクトン)

「昨年の同時期、ファラージ氏は主要政党の党首の中で最も高い支持率を誇っていた」と、世論調査機関モア・イン・コモンのルーク・トリル氏は言う。「しかし、今月初めには、総選挙以来最低の支持率にまで落ち込んだ」。

「ファラージ氏が懸念するのは、支持率低下だけではなく、自分に対して戦術的に反対票を投じる人が増えているかもしれないことだ。そして、支持率の低下は支持基盤の弱体化を示唆している」とトリル氏は言う。

モア・イン・コモンの調査によると、有権者の約80%がファラージ氏の資産に関する疑惑を認識しているものの、それに対する意見は分かれている。

「ファラージ氏の最も熱心な支持者たちは、これを『既得権益層の陰謀』だと考えていることが多い」とトリル氏は言う。「そして、彼の反対派にとっては、彼を嫌う理由がさらに増えただけだ」。

ファラージ氏は、リフォームUKを結成し、多額の資金を確保し、ロバート・ジェンリック氏やジア・ユスフ氏といった著名人を入党させることで、自分が政治家として率いる三つ目の党が、ただ単に自分のワンマン組織ではないことを立証した。

彼はこの危険な(そして自ら招いた)補選の後、自信を深めているかもしれない。しかし、他の政党は、この顛末は資金の無駄遣いだったし、ファラージ氏本人にとって恥ずべきことだという言い方をしている。

この補選がファラージ氏のブランドイメージの低下を意味するのか。それとも首相官邸の住人になるというそのより大きな野望を実現するための足がかりとなるのか。それを決めるのはいずれにしても、クラクトン選挙区ではなく、全国の有権者なのだ。