スイスの氷河でこの1年「壊滅的な」氷の減少、長期的には水供給にリスクも

氷河の先端部が、洞窟かアーチのような大きな溝になり、融解した水が川のように流れ出ている。氷河から崩れ落ちた氷の塊も地面に散らばっている。登山服を着た男性が氷河の前に立っている
画像説明, スイス南東部のモルテラッチ氷河が、暖かい空気と水によって侵食されている
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マーク・ポインティング気候変動担当編集委員

スイスの氷河は2026年、記録的な氷の減少に見舞われたことが、最新のデータから明らかになった。これは、夏の猛暑がアルプスの山々に大きな打撃を与えたためだ。

過去12カ月間で、同国に残る氷河の5%以上が消失した。科学者たちは「異常事態」だと述べている。

研究者らは、気候変動のペースを考えれば、このような急速な氷の融解はもはや驚くべきことではないとする一方で、今後数十年にわたって農業、水力発電、輸送のための水供給を脅かす可能性があると警告している。

氷河の氷が失われると、山の斜面が不安定になり、場所によっては地滑りのリスクが高まる可能性がある。極端な場合には、8月にネパールと中国の国境地帯で発生したような土石流を引き起こすこともある。

この災害には複数の要因が関わっていたが、広範囲にわたる岩盤と氷河の崩落が引き金となった。

科学者たちは、長期的な氷河の薄化と凍土の融解が、このリスクを高めた可能性が高いと述べている。

氷河の縮小自体は、主に化石燃料による二酸化炭素(CO2)排出で引き起こされている地球温暖化のなかでは、当然の事象だ。今回の最新報告書で注目すべき点は、スイスの氷河が縮小していることよりも、その融解の速さだ。

アルプスの氷河学者たちは最近まで、1年間に氷の2%が失われることを「極端な」事態と考えていた。しかし、今年は推定で5.5%が消失した。

「これは本当に悲惨な状況だ」と、報告書を作成した「スイス氷河モニタリング・ネットワーク(GLAMOS)」の代表、マティアス・フス博士は述べた。

下の写真では、中央のバーを左右に動かすことで、1980年と2026年のグライス氷河の様子を比較できる。

暖冬の影響で例年より積雪量が少なかったため、スイスの氷河はすでに厳しい条件下で夏を迎えた。

そして、雪の大半は5月と6月という早い時期にやってきた激しい熱波によって急速に溶け、その下にある氷河の氷が露出した。

むき出しの氷は、新雪よりも色が濃く、反射率も低いため、太陽エネルギーをより多く吸収する。

その結果、氷河がその後の熱波でさらに急速に解ける危険性が高まった。

「10年前なら、氷河がこれほど急速に消失する可能性があるとは考えもしなかっただろう」と、英ブリストル大学の氷河学者、ファビアン・モーシオン博士は述べた。同博士は今回の報告書には参加していない。

「この夏に起きたことは非常に憂慮すべき事態だが、同時に、気候科学者の視点からすれば予想できたことでもある」とも、モーシオン博士は述べた。

ローヌ氷河を2022年から2026年まで毎年同じ場所から撮影した写真が並んでいる。年を追うごとに氷河がなくなり、岩肌が露出し、融解水の流れだす場所が上がってきている。提供はフス博士など

氷河の融解水は、高温乾燥期には灌漑(かんがい)、水力発電、さらには船舶輸送にとって重要な水源となり得る。

科学者たちは、スイスの氷河が今年7月から9月にかけて2兆2000億リットルの融雪水を放出したと推定している。

それは今夏の水不足を緩和するのに役立ったものの、氷が供給し得る水の全体量は急速に減少した。

フス博士は、氷の減少は長期的な課題となる可能性があり、より小さな氷河では以前と同程度に水位を補充することができないだろうと警告した。

「こうした熱波の際に流れ出る水はすべて、何世紀も何十年も前に氷河の氷の中に蓄えられていた古い水だ」

「今は役に立っているが、持続可能ではないので、次の猛暑の時には利用できなくなるだろう」

ライン川は今夏、一部地域で記録的な低水位を記録し、船舶の航路に影響を与え、輸送コストの上昇を招いた。

1951年から2026年までの氷の体積変化率(前年比)の推移を表した棒グラフ。1980年代までは、氷河の氷は前年比マイナス2%~プラス2%の間で変化していたが、1990年代以降はマイナス2%を超える年が増え、2000年代以降は氷が増えなくなった。2020年にはマイナス4%を超える年も出てきた。出典はスイス氷河モニタリング・ネットワーク、なお、氷河の1年は10月から翌年9月

最も不吉な発見の一つは、気温が最も低く、氷河が通常雪に覆われている標高の高い地点で測定された。

海抜3500メートルという高地でも、科学者たちは夏の終わりには雪が全く残っていないことを確認した。

「一部の氷河では、最も高い地点で4メートルもの氷が失われているのが確認された。この時期であれば、そこは数メートルの冬の雪に覆われているはずだ」と、フス博士は指摘した。

雪は氷河の栄養源のようなもので、安定した条件下では、その一部がやがて圧縮され、氷になる。

しかし、夏を越して雪が残らなければ、標高の低い温暖な地域で解けて失われた氷を補うことはできない。氷河は枯渇し、縮小し、最終的には消滅する。

「氷河は、頂上で質量を増し、下流へと流れていくため、複雑な物理現象が数多く関わっている」と、モーシオン博士は説明する。

「簡単に言えば、今私たちが目にしているのは、冷蔵庫から取り出した氷が目の前で解けていく様子だ」

科学者たちは、現在の気候は温暖すぎるため、多くのアルプスの氷河は存続できないだろうと述べている。

スイス東部のプラッタルヴァ氷河のように、すでに消滅してしまった氷河もある。下の写真では、中央のバーを左右に動かすことで、2004年と2026年のプラッタルヴァ氷河の様子を比較できる。

しかし研究者たちは、炭素排出量を大幅に削減すれば、世界の氷河の大部分を救うことができると強調している。

これは特にヒマラヤ山脈や極地において顕著であり、地球上の氷の大部分はこれらの地域に存在する。

「気候変動対策において、私たちはまだ大きな変化をもたらすことができる」とフス博士は述べた。

「これらの氷塊を保全または安定化させることができれば、沿岸部に住む数十億の人々に影響を与える可能性がある世界的な海面上昇を抑制できる」

追加取材:ドミニク・ベイリー記者