ロシアの潜水艇が英海域の海底ケーブルやパイプラインに作戦、英国防相が警告

大きな水しぶきをあげながら航行する軍艦

画像提供, 英国防省

画像説明, ロシア潜水艦の作戦を受け、英海軍はフリゲート艦「セント・オルバンズ」などを派遣した(資料写真)
この記事は約 10 分で読めます

オリヴィア・アイルランド記者、トーマス・コープランド記者(共にBBCヴェリファイ)、フランク・ガードナー安全保障担当編集委員

イギリスのジョン・ヒーリー国防相は9日、ロシアの潜水艦3隻が、イギリス北方海域でケーブルやパイプラインをめぐる「秘密裏」の作戦を実施していたと発表した。

ヒーリー国防相は、ロシアによる「悪意ある」活動を抑止するため、海軍の艦艇と航空機を展開したと説明。一方、大西洋にイギリスが持つインフラに被害が出たという「証拠はない」と付け加えた。

そのうえで国防相は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に直接言及し、「我々はあなたを見ている。我々は、あなたの勢力が我々のケーブルとパイプラインに対して行う活動を見ている。我々のケーブルやパイプラインを損傷させようとする動きを、我々は一切認めないし、そのような行為は深刻な結果を招くと、あなたは知るべきだ」と述べた。

ロシア国営タス通信によると、在ロンドンのロシア大使館は、ヒーリー国防相の主張を否定した。

イギリスは、データとエネルギーの供給を海底ケーブルとパイプラインに依存している。

イギリスでは、とりわけイングランド東部イースト・アングリア地方や南西部の海岸線を中心に、約60本の海底ケーブルが陸揚げされている。イギリスの日常的なインターネット通信の90%以上は、こうした海底ケーブルを通じて行われる。

ヒーリー国防相は首相官邸で行われた記者会見で、ロシアが陽動戦術としてアクラ型潜水艦を派遣する一方、ロシアの深海調査総局(GUGI)に属するスパイ潜水艦2隻が、イギリスの海底ケーブルを監視していたと明らかにした。

アクラ型潜水艦は探知された後にイギリス海域を離れ、ロシアに帰還したが、GUGIの潜水艦2隻はその場にとどまっていたという。

タス通信は、ロシア大使館が「我々は、イギリスにとって真に重要な水中インフラを脅かしてはいない。この件について攻撃的なレトリックを用いていない」と述べたと報じた。

イギリス海軍は、ロシアの潜水艦3隻すべてを追跡するため、フリゲート艦「セント・オルバンズ」、給油艦「タイドスプリング」、対潜ヘリコプター「マーリン」を派遣した。

ロシアの活動追跡には複数の国が関与していたが、ヒーリー氏が名指しで言及したのはノルウェーのみだった。

ヒーリー氏は、「我々の武装部隊はロシアに対し、彼らが監視されていること、その動きがプーチン大統領の意図したように秘密裏ではないこと、そして秘密作戦の試みが露呈したことを、疑いの余地なく示した」と述べた。

さらに国防相は、「我々は彼らを注視し、追跡することができた。そして、彼らに対して毎時間その作戦を監視していることを示すため、ソナーブイを投下した」と話した。

GUGIの潜水艇とは

イギリスの海底ケーブルを標的にした潜水艇を追跡する方法をイラストで示した図。水面下の動きを検知するため艦艇や航空機からソナーブイを投下する。ソナーブイは「パッシブ探知」でプロペラや機械の音を探知する。また、「アクティブ探知」では潜水艇を探知するためにソナーの「ピング」を送信する

GUGIは、ソ連時代の国家保安委員会(KGB)や現在の連邦保安局(FSB)ほどの知名度はないが、西側諸国に重大で危険な挑戦をもたらす存在だ。

GUGIはロシア海軍の一部ではあるものの、極めて秘密性が高く、国防相と大統領に直接報告する。

本部はバルト海沿岸のサンクトペテルブルクにあるが、北極圏にも拠点を持ち、ロシアの戦略核潜水艦部隊の母港があるコラ半島北部のオレーニャ湾から展開することができる。

GUGIは、水中での監視、破壊工作、偵察を専門としている。水深の極めて深い海で軍事装備を運用できる能力を持つ国は、アメリカを除けば、ロシアだけだ。

GUGIの軍備には、ロシアが北大西洋でイギリスのデータケーブル上に展開したとみられているような、小型の無人潜水艇も含まれる。

こうした「ミニ潜水艇」は夜間に、情報収集艦「ヤンタル」のような艦船から秘密裏に発進させることができる。ヤンタルは以前、イギリス海峡周辺を徘徊しているのが確認されたことがある。「ミニ潜水艇」はケーブル切断能力を持つほか、場合によっては、ケーブルを遮断し、そこを通過するデータをロシアが監視できるようにする可能性もあると懸念されている。

こうした行動はすべて、いわゆるハイブリッド戦争の一部。ハイブリッド戦争には、実行主体を特定できる致死的な攻撃には至らない敵対的な行為が含まれる。

ロシアは武力攻撃がいざ始まった時に有利になるため、西側諸国の海底ケーブルやパイプラインをひそかに監視しているのではないかと、イギリスと北大西洋条約機構(NATO)は懸念している。

仮に本格的な戦争となった場合、ロシアは開戦前の準備段階で事前に設置していたかもしれない装置を作動させるなどして、イギリスのデータ通信を可能な限り遮断または混乱させようとするだろうとみられている。

ヒーリー国防相はまた、世界が中東での戦争に「気を取られている」状況をプーチン氏が利用しようとしたと主張し、イギリスの安全保障に対する「一番の脅威」をもたらしているのはロシアだと述べた。

ヒーリー氏は、ロシアは依然として「脅威」だとしたうえで、その今後の活動をイギリスは追跡・監視可能だと自信を示し、「我々の重要な利益を脅かすかもしれない秘密作戦をプーチンが仕掛けようとしても」イギリスはそのすべてを暴き続けると主張した。

イギリスのキア・スターマー首相は、「プーチンの攻撃の代償を、イギリス国民が家庭の光熱費として払う羽目にならないよう、イギリス国民を守ると決意している」と述べ、「だからこそ我々は、行動を取ることや、我々の決意を試そうとするロシアの不安定化工作を暴くことをためらわない」と付け加えた。

ヒーリー氏の記者会見を受け、最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、スターマー首相に「国防投資計画を今すぐ公表せよ」と求めた。

ベイドノック党首はソーシャルメディア「X」への投稿で、「我々はロシアの攻撃的行動に対し、肩を並べて立ち向かっている。国外で強さを示すためには、国内支出が明確でないとならない」と書いた。そのうえで、国防投資計画がなければ、スターマー首相の戦略は「単なる言葉にすぎない」と付け加えた。

野党・リフォームUKのナイジェル・ファラージ党首は、ロシアの石油タンカーが今週、ロシア海軍艦に護衛されてイギリス海峡を通過したという報道に触れ、「この国にはどのレベルにおいても、実戦対応可能な海軍がない。それがこの1カ月ではっきりした。このことを我々は、大きな警鐘として受け止める必要がある」と述べた。

ロシアに駐在経験のある元英海軍士官のジョン・フォアマン氏は、BBCに対し、「このレトリックはもう使い古されたものだ」、「我々はロシアの脅威を十分に認識している。問題は、それに対して何か行動を取っているのかどうかだ」と述べた。

フォアマン氏はさらに、英海軍の給油艦「ウェーヴ・ナイト」と「ウェーヴ・ルーラー」の退役を指摘し、イギリスは安全保障の維持に「大きな負担を強いられている」と述べ、「イギリスは今、海上安全保障のどん底に直面している。そこから、どうやって抜け出せるのか、私には分からない」と懸念を示した。

イギリスは海底ケーブルやパイプラインに大きく依存

海底ケーブルやパイプラインは、世界的に不可欠なインフラの重要部分を占める。

世界では600本以上の海底ケーブルが、海や大洋を越えて電力や情報を運び、その総延長は約140万キロメートルに及ぶ。多くの場合、目立たない場所で陸揚げされている。

イギリスと北米・欧州をつなぐ海底ケーブルとパイプラインを示した地図。ブリテン島とアイルランド島を中心に、赤と紫色の線が四方八方に伸びている。地図にはイギリスとグレインジマウスおよびビュード、アイルランドのダブリンが示されている。アイルランド島の西側は北大西洋、欧州に面している方は北海。出典はグローバル・エネルギー・モニターとテレジオグラフィー

英シンクタンク「王立統合軍事研究所(RUSI)」の海軍事研究者、シダース・カウシャル博士はBBCヴェリファイ(検証チーム)に対し、ロシア軍のGUGI部隊は、より大型の「母船」による支援を受けながら深深度まで潜航できる小型潜水艇を運用していると述べた。

カウシャル博士によると、こうした艦艇は「対応が複雑な目標」だ。探知を回避するために、発する騒音や排水量、磁気センサーへの感度を抑えるといった設計がされているためだという。

同博士はまた、イギリス海軍に監視されている間も、ロシアの潜水艦はイギリスの海底ケーブル網に関するデータをおそらく収集できただろうと指摘。平時においてイギリスがこうした活動を抑止できる能力は「限られている」としたうえで、軍や民間組織は「国際水域にいる限り」、こうした監視活動を合法的に実施できるのだと説明した。

その一方で、イギリス海軍がロシアのこの作戦を監視することで、ロシアが何を測量し、どのような戦術を使っているかなど、重要な情報を得た可能性があると博士は指摘。イギリス海軍は「残されていた監視装置」も回収できたかもしれないという。

イギリスはまた、主に北海に敷設された海底ガスパイプライン網にも依存しており、イギリスおよびノルウェーの大陸棚から不可欠なエネルギー供給を受けている。

その中には、ノルウェーとイギリスを結ぶ全長1166キロメートルのランゲレッド・パイプラインも含まれる。

イギリスが輸入するガスの約77%は、北海の海底に敷設されたパイプラインを通じてノルウェーから供給されている。

BBCは2025年、ロシアがイギリスおよび西ヨーロッパに対して「ハイブリッド戦争」を展開し、ウクライナへの軍事支援の継続を罰したり、思いとどまらせたりしようとしていると報じた。

「ハイブリッド戦争」とは、敵対国が通常は極めて疑わしい状況で、匿名かつ否認可能な形で攻撃を実施するものの、実行者を特定できる戦争行為には至らない、「戦争未満」な状態を指す。